約 1,076,908 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/433.html
朝になった。おれはベッドから出る。 部屋を出て朝の散歩だ。普段はこんなことしないのだがもっと静かに眠れるところを探すために歩く。 ドアは時間がかかったが何とか開けられた。 中庭にでたらそこに女を見つけた。 とりあえず話を聞いてみよう。 「日当たりが良い静かな場所知らない?」 その女はいきなり話しかけられたことに驚いたのかちょっと飛び上がってあわててこっちを向く。 「え?あれ?誰もいない?」 「下だよ。下」 「え?下?…わあ可愛いワンちゃん!」 そういって頭をなでてこようとする。が、おれはそれをかわし 「日当たりが良くて風が気持ち良い静かな場所知らない?」 最初と同じ事を質問する。 「え?ってワンちゃんが喋ってる!?」 「日当たりが良くて風が気持ち良くて腹が減ったらすぐ食事ができる静かな場所知らない?」 最初と同じ事。三回目だぜ、まったく何回同じ事をいわせるつもりなんだか。 「え?えーと、えーと」 混乱してやがるよ。使えねぇなあ。 「もういいよ。じゃあな」 そういって去ろうとするが 「待ってください!」 そういってひょいと抱き抱えられる。噛み付いてやろうかと思ったが 「おお?」 コイツ…服の上からじゃ分からなかったが結構胸がある! しばらくおれはこの女(シエスタというらしい)に抱えられていることにした。 いやー楽しかった。 ルイズにもあの半分くらいあればなー。 そろそろ起きるころだろうと思い部屋に戻る。 部屋のドアを開けたおれが見たものは何故か床で寝ているルイズだった。 起こしてみる。 「ん?どこの犬よアンタ。貴族の部屋に勝手に入ってきていいとおもってるの?」 「スマン。出て行くよ。もう二度と入らない」 言葉通り部屋を出る。これで自由の身になった。 「って、ちょっと待ちなさ~~~い!アンタ使い魔でしょ!わたしの!」 部屋からネグリジェ姿のままルイズが出てきた。 「使い魔のクセに逃げていいと思ってるの?」 「ご主人様が部屋に勝手に入るなと言うものでして…」 「ア、アンタねぇ!」 「ご主人様、お怒りをお静めください、さもないと大変なことに…」 「どうなるっていうのよ」 「何よルイズ。朝っぱらからうるさいわよ」 こうなって、 「そんな格好で恥ずかしくないの?胸とか」 こうなる。な?大変だろ? ルイズは顔を真っ赤にして部屋に駆け込む。 部屋に戻ったルイズが出てくる前にイギーはクールに去るぜ。 と、その前に 「おれはどこで飯を食うんだ?」 赤毛のねーちゃんに聞く。 「あらこれから食事?ならフレイムと一緒に行くと良いわ。」 そういって自分の部屋からトラくらいの生物を呼び出した。 「おれはフレイム。コンゴトモヨロシク」 「おれはイギーだ」 自己紹介を終え、フレイムの先導で食事場に行く。その途中でフレイムが話しかけてきた。 「あんたどんな所から来たんだ?おれは…」 「黙れよ」 「え?」 「黙れと言ったんだ。」 「え?そんな…」 「聞こえなかったのか?」 「いや、その…」 「お前はおれに絶対服従だ。いいな?」 フレイムは見ていたようだ。昨日ギーシュを倒したおれの実力を。 フレイムは見抜いたようだ。自分よりおれの方が強いことを。 「お前、おれの弟になれ」 「はい!アニキ!」 いい返事だ。 食事場で食事を取った後(あまり美味しくなかった)、使い魔はそれぞれの主人の元に行くらしい。 おれもルイズと合流すべく移動する。 見つけた。だがここで重要なのはタイミングだ。 なるべく人が多い所ならヤツもそう大声を出したり、鞭を使ったりしないだろう。 ベストプレイスを見つけそこで合流。 よし、何も言ってこない。作戦成功だ。 そう思っていると前方にシエスタを発見。 なんともなしに見ていると、曲がり角で貴族にぶつかった。 いや、貴族の方がぶつかってきた。 わざとじゃないんだろうが悪いのは貴族だ。だが 「君は一体どこを見ているんだね!」 「す、すみません」 あれ?あいつギーシュとか言うヤツじゃないか? ルイズも気になったようでそのまま見続ける。 「まったく!何もかも君のせいだ!ケティの機嫌が悪いのも!モンモランシーが怒っているのも!」 それはシエスタのせいじゃ無いな絶対。 そうこうしているうちに言うことが要領を得なくなっていく。 シエスタはもう泣きそうだ。 おれはソイツに一言言ってやろうとして歩き出した。 υ_⌒_ゝ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ γ (Å) < 犬好きの女の子は・・・見殺しにはできねえぜッ! υυUU \__________________________ ↑今のおれの心境 「おい、お前何やってんだ」 「ん?何だね君は?」 「おれだよ。覚えてないのか?」 「どこかで会ったことが?そもそも何で僕が犬なんかのことを覚えなくちゃいけないんだい?」 こいつ…記憶が飛んでるのか?まあかなり強力にぶっ飛ばしたから無理も無いか。 「何やってるのよアンタ!」 「なんだいミス・ヴァリエール。君の犬…いや使い魔かい?」 「そうよ」 「名前はなんて?」 あ、コイツ標的をおれ達に変えやがった。 「イギーよ」 「イギー?変な名前だね。僕がもっといい名前を考えてあげよう」 「けっこうよ!」 「遠慮しないで、えーとそうだな…」 変な名前をつける気だな。 「犬の怪獣みたいな感じで『イヌゴン』。どうだい?」 半笑いで聞いてくる。 「メルメルメ~~!」 ギーシュの手に噛み付く。 「いたっ!よし決闘だぁ!」 コレが狙いか、決闘で憂さ晴らしをする気だな。 おれは決闘を受けた。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/287.html
監督教官のコルベールはほぼ満足していた。 新2年生のほぼ全員が使い魔の召喚と契約を無事済ませていたからだ。 (なまじ高等な幻獣を召喚されたら契約するだけで一苦労ですからねぇ) 生徒達が自分の力量と特性を見極め、それに見合う使い魔を召喚し、メイジとしての自分自身のあり方を見定める。 これが2年生最初の授業にして伝統の儀式「春の使い魔召喚」の目的だった。 とはいえ、 (まあ、やっぱりというか、予想に反してというか…) 今年度最大の問題児のみ、まだ使い魔との契約を済ませていない、という点だけは不満足だった。 その問題児、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが問題児たる所以は、通常のように 素行不良や成績不振、または対人関係といった人間的な部分には無い。 魔力はあれど術を一切使えないという、メイジとしての存在意義そのものを危うくするほどの欠点を、 彼女が持ち合わせていた事、ただそれだけ。 コルベールの予想通りだったのは、ルイズの召喚魔法が常識外れの結果に終わった事。 コルベールの予想と異なっていたのは、ルイズが一発で使い魔の召喚に成功した事。 そしてコルベールの予想を遥かに超えていたのは、召喚した使い魔が人間だった事。 「ミスタ・コルベール!もう一回だけ召喚させて下さいっ!」 嘆願、と言うよりもわめき散らすルイズを前にして、 (さてどうしたものか) 極力表情を表に出さないように、コルベールは悩む。 召喚した使い魔が気に入らないという理由でのやり直しなぞ、到底認められるものではない。 それは使い魔召喚という儀式とその目的を、ひいてはトリステイン魔法学園の伝統を、乱す事に他ならないからだ。 一方、自分が知る限り、人間を使い魔として召喚、使役したメイジなぞ聞いた試しもない。 コルベールはより無難な回答を出すことに決めた。 「それは駄目だ。召喚に成功したのなら、それが君の使い魔となるべき者なんだ。例えそれが…」 改めてルイズが召喚した人間を観察する。 がっしりとした筋肉質の若い男。立ち上がると身長は2メルテもありそうだ。 どこか気品のある、それでいて垢抜けない仕草は辺境出の貴族のようにも見える。 杖は持っていない。衣装も見慣れぬ物だ。身分を示すような装飾品も見当たらない。 「…平民だったとしても例外ではない。これがこの儀式のルールであり伝統だと説明したはずだがね」 目に見えて落胆するルイズ。他の生徒達は口々にはやし立てる。 「さあ、契約を済ませ、儀式を完遂するんだ、ミス・ヴァリエール」 召喚した平民のもとへ渋々と戻り、その場に座らせてから、杖を振り、口訣を結ぶ。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」 唇を合わせようとルイズが顔を近づけると、平民の男が突然立ち上がる。 「な、何をするだァーッ!ゆるさんッ!」 「ちょっと!じっとしてなさいよ!」 「何てふしだらなんだ君はッ!こんな人目のある所で、見ず知らずの男である僕にッ!」 「あんたは私の使い魔なんだから言うこと聞きなさいよ!」 「僕は紳士だ!愛してもいない女性から誘惑されるなど願い下げだッ!」 「いいから座りなさい!あたしが届かないじゃないの!」 「君の言うことを聞くつもりはないッ!」 まるで会話が噛み合っていない。 (ああ…もうどうしたもんだか) コルベールは頭を抱える。授業時間はとっくに終わっているのに、これ以上面倒を増やして貰いたくはなかった。 「結構いい男じゃないの、ねぇタバサ?」 赤髪の女生徒キュルケの問いかけに、 「…」 青髪の女生徒タバサは特に答えを返さない。 早々に自分の使い魔と契約を結んだ二人はルイズと使い魔のちぐはぐな口喧嘩の推移を見守っていたが、 「それにしてもいつまでやってんだか」 まるで話が進まないのでいい加減飽きてきた。 「さっさと押し倒してキスしちゃえばいいのにねぇ」 「相手が大きすぎる」 「あなたなら『風の槌』でブッ倒しちゃうんじゃない?」 「手助け禁止」 「あ」 男の眼前で小さな爆発が生じる。 怯んだ男が膝を屈した所でルイズはその頭を両手で掴み寄せ、強引にキス。 「うわお、情熱的ぃ」 にやにやと嫌な笑みを浮かべるキュルケ。 ジョナサンは目の前で拳銃を発射されたような衝撃と爆音にもうろうとしていた。 (な、何を…?) 視覚と聴覚が白く塗り潰された中で、頭を掴まれ、唇に何かが触れる。 「はっ、離すんだッ…」 掴まれた頭をふりほどき、どうにか立ち上がろうともがくが、 「うおおおおおお!」 左手に生じた焼け付くような痛みにうめき声を上げ、またその場に膝まづく。 「終わりました、ミスタ・コルベール」 ルイズは複雑な心境で一礼した。 失敗魔法の爆発で使い魔の平民-ジョナサンに目くらましを浴びせ、その隙に契約を成功させたのは 我ながら胸がスカッとする機転だった。 が、そもそもその魔法が失敗だったこと、そして何よりも自分の使い魔がどこの馬の骨とも知らない平民であることは はなはだ不服でならなかった。 更に悪いことに、コルベールはジョナサンの左手に刻まれた使い魔のルーンを一目見るなり、 「ふむ…珍しいルーンだな」 とだけ呟き、後はまったく関心を払わなかった。 (せめて魔法の系統ぐらい教えてくれても良かったのに) 「ほら『ゼロ』!早く来ないと次の授業が始まっちまうぜ?」 「頑張って走りなさいな!グラウンドは広くてよ!」 「飛行」の魔法で易々と校舎に戻るコルベールと級友達を苦い思いで見送ってから、その光景にぽかんと口をあけて 見とれているジョナサンに 「ほらっ!あたし達も校舎に戻るわよ!」 と声を掛ける。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2170.html
「ハーミット・パープル」を使い魔にしてはや数日。 ルイズはいつものように授業に出て、いつものように魔法を失敗し、いつものようにバカにされていた。 しかし不思議と心は晴れ渡り、バカにされても鼻で笑い返すほど、彼女の心は満ち足りていた。 今日は虚無の曜日、すなわち休日である。ルイズはハーミット・パープルの能力をより深く図るため、王都トリスタニアに行くことにした。 「五人目ね」 すれ違った男が何かに足を取られ、ブルドンネの大通りのど真ん中で盛大にスッ転ぶ姿を見つつ、ルイズが呟いた。 いくら王都とはいえ、休日で人に溢れている大通りにはスリも多いのだが、ハーミット・パープルで財布を包み込んでいるルイズには通じない。 それどころか、財布をスろうとした貴族崩れのメイジに、ハーミット・パープルで足を引っかけて転ばせるという地味~な反撃もしているのだ。 しばらく町をぶらついた後、タバサの探していそうな秘薬を見てみようかと、ピエモンの秘薬屋へと足を向けた。 「またのお越しをお待ちしておりやす」 秘薬屋の近くを通りかかったルイズは、フードを被った男性を中心に、いかつい体つきの男達が店から出て行くのを見つけた、店の人間が恭しく見送っているのを見ると、どうやらお忍びの貴族か金持ちの上客らしい。 ルイズは少し考え込んでから、意を決してその店に入ってみることにした。 「いらっしゃいませ、おや貴族様ですか、うちは目を付けられるようなことはしておりませんが」 先ほどのお忍び姿の男と違い、ルイズは魔法学院の制服姿、つまりマントをつけたメイジの姿をしているので、店主は揉み手をしながら卑屈そうにしていた。 「ちょっと見に来ただけよ」 「そうでございましたか。もしや、従者に与える武器武器をお探しでございましょうか?」 「従者?」 ふと思い返すと、先ほどの男達は確かに貴族とその従者にも見える。 「はい、最近土くれのフーケが貴族様相手に暴れ回っているせいか、従者に与える武器の需要も高まっておりまして」 「そうなの」 短く、素っ気なく返事をしつつ、ハーミット・パープルを伸ばして店主の頭に軽く触れると、特に何の思考も伝わってこなかった。…ということは、この男は本心から今の言葉を言っているのだろう。 しかしルイズの態度を見て、この店主は金儲けの算段を思いついたのだろう、悪巧みの思考がハーミット・パープルを通してルイズに伝わってきた。 『こりゃ何も知らないみてえだなあ、見た目の良さそうな剣でも売って、気持ちよ~~~くお帰り願おうか、へへへ』 店主の思考を知ったルイズは、貴族に対し不埒な考えを抱く店主に、少しお灸を据えてやろうと考えた。 「この店で一番上等な剣はどれかしら?」 「へえ!少々お待ちください」 そう言いながら、店主は店の奥から大仰な剣を持ち出してきた。 柄などに宝石がちりばめられた美しい長剣であったが、ルイズの心はそんなものには惹かれない。 なぜなら、ハーミット・ハープルが店主の頭にちょっと触れれば、この刀がどれほどのものかすぐ解ってしまうのだから。 「これはゲルマニアのシュペー卿が練金された名剣でございまして……」 説明を聞いていたルイズは、笑いをこらえるのに必死だった、店主が頭の中で『シュペー卿は実践に使えないガラクタばかり作るんだよなあ』と考えているのだから。 とりあえずルイズは、それをそのまま言い返すことにした。 「シュペー卿は実践に使えないガラクタばかり作るんですって?」 「へっ?え、あ、その……儀礼に使う剣として素晴らしいものでして、はい」 ビクッ、と体を震わせ、少し怯えているようにも見える店主の姿がおかしくて、ルイズは笑いながら呟いた。 「ふふっ、お店の程度が知れるわね」 『ちげえねえ!一本とられたなあ親父よお』 突然、店内から聞こえてきた声に、ルイズはきょとんとした。 「げっ…。デルフ!おめえ余計なこと喋るなって言っておいたじゃねえか!」 『俺は何も言ってねーよ。やるねえ貴族の娘っ子よお、この親父が狼狽えてるのは久々に見たぜ』 きょろきょろと店内を見回したルイズは、声に合わせて一本の剣が振るえているのを見つけた。 「インテリジェンスソード?実物は初めて見たわ」 ルイズはデルフと呼ばれたインテリジェンスソードに近づき、ハーミットパープルで柄を握った。 インテリジェンスソードにも心があるのかと思い、興味本位で這わせただけなのだが、不思議なことにハーミット・パープルの先端に輝くルーンが浮かび上がった。 『おお?おでれーた!こりゃおでれーた、嬢ちゃん使い手か、しかも面白いもん持ってやがる』 「使い手? …あ、それよりも、コレのこと解るの?」 『ああ、ルーンが浮かんでるおめえの使い魔だろ?でもおかしいな、なんか主人と一心同体な気がする』 これはまずい、という考えたがルイズの頭をよぎる。 ルイズがハーミット・パープルの能力に満足しているのは、他人には見られないという点が大きい。 そのため、ハーミット・パープルをすぐに知覚できるようなものが、他人の手に渡るのは何とか避けたい。 意を決してデルフリンガーを持ち上げると、店主に向かって言った。 「これ、値札が付いてないけど、幾らになるかしら」 「それですかい?それなら100エキューでけっこうでさ」 すかさずハーミット・パープルを伸ばして店主の頭に触れる、先ほど高額な剣を売り付けようとした罰として、弱みを握って安く買いたたいてやろうと思ったのだ。 だが、店主の頭には、口の悪いデルフリンガーが返品される可能性への不安や、家族を食わせていくには幾らで売れば丁度良いか…など、予想外に家族思いな一面が見えていた。 「……100エキューね。それぐらいなら払うわ」 「! まいどあり、へへへ、それでしたら鞘もおつけしまさあ、五月蠅いときは鞘に押し込めば静かになりますんで」 ルイズが代金を支払うと、店主は急にニコニコと笑顔を見せつつ、サービスとばかりに鞘と、質の良いナイフを付属品としてルイズに渡した。 デルフリンガーを九割ほど鞘にしまい、綺麗な文様の浮かんだナイフを懐にしまうと、ルイズは代金とは別に金貨を一枚カウンターへ置いた。 「貴族様、ナイフはサービスでございますが」 「今度生まれてくる子供には、ひもじい思いをさせないようにしなさい」 店主は一瞬、呆気にとられたような顔を見せた。 ルイズが店から出て行くと、店主はハッと正気に戻り、金貨を自分の額の前に持ち上げて、心の祖から恭しく礼をした。 『おめえも変わった奴だななあ』 「あんたも変わってるわよ、口が悪いのに”インテリジェンスソード”なんて、何の冗談?」 『俺にだって、デルフリンガーって名前があるんだぜ。ただのインテリジェンスソードだと思わねーでくれよ』 「デルフリンガー?たいそうな名前ね。私は…そうね、ルイズで良いわ。さっき見せたのは私の使い魔『ハーミット・パープル』よ」 『へえ…なるほどねえ』 デルフリンガーは、馬に乗って魔法学院へと帰るルイズの背に負われつつ、ハーミット・パープルの『意識』を感じ取っていた。 (この嬢ちゃんの意識に何か混ざってると思ったが、当然だよなあ、完全に一体化して影響し合ってやがる) 「なにか言った?」 『なんでもねえ、これからよろしくな』 思えばこの時、デルフリンガーをちゃんと問いただしていれば、ルイズは一生残る過ちを犯さずに済んだのかも知れない…… この日の晩、ルイズは風呂に入って疲れを癒し、そろそろ寝ようとしたところで、異変が起こった。 コンコン、と扉がノックされ、『アンロック』で部屋の鍵を開けられたのだ。 「!」 昼間のスリ対峙の興奮が覚めやらぬのか、思わず、ハーミット・パープルを出しつつ身構えるルイズ、だがその緊張と心配は杞憂に終わった。 「はぁい、ルイズ。今暇かしら」 部屋に入ってきたのは、ネグリジェを着たキュルケだった。 「何よもう、そんな格好で……驚かさないでよツェルプストー。 それにアンロックは禁止されてるじゃない」 「そんなこと言わないでよ、貴方の部屋から話し声がしたから、男でもつれ込んでるのかと思ったけど……」 そう言ってキュルケはルイズの部屋を見回す、どう見ても男が隠れそうなところはないし、窓から逃げ出した様子もない、それにベッドも綺麗なままだ。 「あんたじゃあるまいし、男を連れ込むわけ無いじゃない」 先ほどまでデルフリンガーと話していたのを聞かれてしまったのかと、心の中で舌打ちしたルイズは、キュルケが満面の笑みを浮かべているのを見て少しだけ不機嫌になった。 「ふふっ、そうよねえ、男なんかいらないものね」 「何よ、皮肉のつもり? 用がないならとっとと出ていってよ」 「違うわよ、あんな立派な触手があるなら、そりゃあ男なんかいらないと思うわよねえ」 「言わせておけば…!」 キュルケを、窓から外に投げ飛ばしてやろうか、と思ったところで、ルイズの頭の中に声が響いた。 ”言ってわからねー女には、体で解らせてやれッ!” 「そうね!その通りだわ」 笑みを浮かべつつベッドから立ち上がったルイズを見て、キュルケは後ずさろうとしたが、自分の体が何かに絡め取られているのに気づいて身を硬直させた。 「ちょっ、ルイ…んっ」 ハーミット・パープルがキュルケの口をふさぎ、そのままルイズのベッドへと引き倒す。 「言って解らないなら、躰で解って貰うしかないわね」 ルイズの浮かべた笑みは、悪戯を思いついた子供のような…言い換えれば『ハッピーうれピーよろピクねー!』といった具合の笑みだった。 翌朝、誰かの肌の感触で目を冷ましたルイズは、窓から差し込む朝日の眩しさに目をこすりつつ、隣を見た。 なぜか一緒のベッドで寝ているキュルケが、やけに熱っぽい視線をルイズに投げかけている。 「昨日は…凄かった……」 頭から血の気が引いていく音って、ホントに聞こえるのね…… そんなことを考えながら昨晩のことを思い出し、ルイズは気絶した。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/847.html
朝起きて、頬に生まれかけたニキビを見つけた。 これは幸運の報せなのか。それとも不幸の前兆なのか。それを考えるだけで胃が痛い。 窓を開けて新鮮な空気を入れる。心地よいはずの風が、なぜかとても冷たい。 予想以上に緊張している自分に気づく。おっぱいおっぱいおっぱい。ダメだ、緊張が解けない。 あきらかに昨日の儀式よりガチガチしてる。 だってね、完全ないかさまじゃないにしても、かなりドラスティックな方法をとるわけじゃない。 そりゃ緊張もするっていうのよ。相変わらずミキタカは涼しい顔してる。こいつばっかりは本物だ。 「よく晴れた。本日も召喚日和だね」 みんなが休んでいる状況でわたし達だけが呼び出されているということに緊張する。 先生とわたしとミキタカ、三人だけで召喚の儀式をしなければならないことに緊張する。 コルベール先生の軽口さえもわたしを緊張させる。 要するに全部が全部緊張の種になる。 「ねぇミキタカ。大丈夫なのよね?」 「イヤーソレホドデモアリマセンヨ」 褒めてないっての! どういう流れで褒めてることになるのよ? 「さて、それではミス・ヴァリエールから始めなさい。ミスタ・グラモンはそこで見ているようにね」 あーあ、ミキタカ目ぇつけられてやんの。まぁあいつのことだから何とかするだろうけど。 さて、わたしはわたしで作戦通りにがんばりますか。とりあえず適当に詠唱はじめーっ。 ぶつぶつぶつぶつっと。……まだかな。もうちょっとか。 あーあ、本当にいい天気だね。お日様も高いし雲ものんびりしてる。 こんないい天気にわたし達何やってるんだろうね。なんだか空しくなってくるなぁ。 みんな今頃何やってるんだろ。キュルケあたりは男とおしゃべりかな。マリコルヌは使い魔の自慢。 モンモランシーとギーシュはいちゃいちゃしてるんだろうな。ゲホンゲホン。 ゴホッゴホッ、わたしも使い魔できたら、ゲホゲホゲホゲホッ、みんなに自慢、ガホガホッ。 「ミス・ヴァリエール! 儀式は中断だ! どこにいるんだ、ゴホゴホッ、見えん、ゴホッ、逃げなさい、早くッ! ゲホゲホッ」 コルベール先生ゲホゲホゲホッ、ていうかこれ、えっ、ゴホンゴホンッ、火っ? 「ルイズさん、ルイズさん」 え、え、え、うわ、ゴホゴホゴホッ! ゲホゲホゲホゲホッ! 「安心してください、大した火ではありません。煙を優先しましたからね」 グェホグェホグェホグェホッ! 目ぇ痛っ、目ぇ痛っ、痛いっ痛いっ! 「でもその分すぐに消えてしまいます。さ、手早くどうぞ。私の力を存分に振るってください」 ゴボゴボゴボゲボゲボゲボゴボゴボッ、こおのミキタカアアアアッ! 「どうしたんですか?」 ま、まずい、このままだと退学の前にこいつに殺される。早く早く杖を振るってルーンルーンルーン。 惑乱の最中、わたしはどう唱えたのかも分からずに呪文を唱えた。 それが功を奏したのか、それともミキタカの力が物を言ったのか。悔しいけどたぶん後者ね。 爆発は起きなかった。 やったのか? それともやはり失敗なのか? あれだけもうもうと立ち込めていた煙が、突風に追い立てられ、見る見るうちに晴れていく。 いつの間にか杖から元に戻っているミキタカ、大慌てのまま固まっているコルベール先生、そしてもう二つ、何かがいた。 二だ。すごい。一じゃなくて二だ。ここまで上手くいくなんて。 わたしは自分をたたえ、ミキタカに感謝した。超数学の存在を本気で信じかけた。 ああ、何度目になるだろう。自分で自分が嫌になる。 何から何までそんなに上手くいくわけがないじゃないの。だってわたしはゼロのルイズ。 嫌ってほど分かってるはずなのにねぇ。人生って辛い。 煙が晴れていくにしたがって、呼び出された存在が露になっていく。 人生始まって以来最大の高揚状態にあったわたしの心は、煙が消えるに従いしぼんでいった。 そりゃしぼみもするよ。せっかく大成功ってところでこれじゃね。冷や水ぶっかけられるってもんじゃない。 そこには二人の平民がいた。そう、平民だった。見るからに平民だった。 メイジ召喚したらそれはそれで大問題だけど、平民ってどういうことよ。 ドラゴンやグリフォンじゃなきゃ嫌だなんて子供みたいなことは言わないけどさ……でも平民て。 「やりました。成功しましたね、ルイズさん」 これを見てそう言えるミキタカに乾杯。あんた、とことん大物だよ。 平民召喚ってさ……これはこれで退学ものなんじゃないの? コルベール先生も大口開けてるよ? 一人は老爺。いくつくらいだろう。とにかく年をとっていることだけは確かね。 妙に澄んだ瞳からは、膨大な経験に裏打ちされた高い知性が垣間見える。 腰もまっすぐで、この状況下、わたし達も含めた中でただ一人落ち着いていた。目が合ったわたしに微笑む余裕さえある。 平民は平民なりに、けっこうたいした人物なのかも。 そしてもう一人は……ランキング的には中の中ってとこか。大きさも張りも乳首との兼ね合いもそこそこかな。 年の頃は二十代前半に見える。気の毒なことに呆然としていた。 そりゃそうだよね。いきなり裸で呼び出されたりしたらわたしだって困る。 「あんたが絡むと裸ばっかりよね」 「ばっかり? 初めてだと思いますが」 「……そうね。初めてね」 あぶないあぶない、ここでバレたらカンッペキにアウトじゃないの。気をつけなさいよルイズ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2032.html
さて、日の出前の一見平穏そうな学院を眺める二つの視線。 当然、元暗殺者とそれに半分脅されている現役盗賊である。 一見静かそうに見えるが、よく見ると死体が転がっていたりもする。 遠目だが、あの装備は銃士隊の物だ。 つーまーり、隊長であるアニエスが居る可能性が高い。 まぁ、居たからっつっても特に関係無いのだが。 戦争がおっ始まったこの時期になれば、後はどんだけ早くアルビオンに向かいクロムウェルを始末するかなので 見知った顔にバレても特に問題ないのである。 問題は、どうするかだ。 どうするにしろ、いきなり広域老化ブチ込んで学院側に余計な死者が出たら交渉にもならんだろうというぐらいは分かる。 関係なけりゃあ纏めて老化させるとこだが。 少なくとも、まずは探りを入れ接触する必要があるのだが、そういう事に向く能力ではない。 そういうわけで、横のフーケに話を振る。 「よぉ…オメー、ゴーレムとか出せよ」 「あんなバカデカイもん出したら一発でバレるよ」 「じゃあ派手に魔法ブッ放せ」 「わたし一人であれだけの人数相手にできるはずないじゃないか。あんたがやりな」 「ちッ…使えねーな」 プッツン ―き…切れた…わたしの中の決定的な何かが…! 必要最小限のモーションで杖を取り出しゴーレムを瞬時に練成ッ! 「あんたが無理矢理手伝えって言ってるから付き合ってるんだ…」 背後に練成させたゴーレムの親指を目の中に突っ込んで殴りぬけるッ! 「それを、よくも!このクソがッ!このフーケ様を『使えない』などと抜かしたなァああっ----ッ!」 今のフーケに美貌というものは一切存在しないッ!今のこいつの心はドス黒い真っ黒な闇のクレパスだッ! 「この…ド畜生がァーーーーーーーーーーーーーッ!!」 その叫びと共にゴーレムがプロシュートに無数の蹴りを放つッ! 「ゴーレムで踏み潰すのは一瞬だッ!それではわたしの怒りがおさまらんッ!」 鉄のゴーレムがッ!プロシュートの全身を満遍なく蹴り付けるッ! 「お前が悪いんだ!お前がッ!わたしを怒らせたのはお前だッ!お前が悪いんだ!」 その形相たるや鬼か悪魔か、まさにオーガの如し。 今ならば奇声をあげながら飛び蹴りを放っても全く違和感がございません。 フーケ改め、サウスゴータ海王お得意のゴーレム練成による渾身の打岩にございます。 「思い知れッ!どうだッ!思い知れッ!どうだッ!どうだッ!」 黒曜石も砕けよといわんばかりの音がその場に流れ続けていた。 遂に、本体であるサウスゴータ海王も蹴り始めました。 もう誰も止めようがないのであります。 一頻り蹴り終えると、大きく息を吸い込み虚空に向け思いっきりシャウト。 それと共に、WRYYYYYYYY!という叫びが最も似合うサウスゴータ海王渾身のポージングにございます。 「勝った!ゼロの兄貴完!!」 ………………ってやれたらいいのになぁ。 軽く現実から逃避していたが、どんなに辛くても現実から目を背けていられないので戻ってきた。 一人なら酒瓶に塗れて、酒と目から流れ出る水分の混合物に長い髪を濡らしている所である。 魔法を使うには呪文が必要であり、唱える際に時間が掛かる。 コモンマジックならともかく、ゴーレムなんぞを作るとなると、それなりの呪文が必要だ。 対してスタンドは即時発動可能である。 装填済みの銃相手に未装填の大砲で相手にするようなもので、この場合分が非常に悪い。 おまけに、相手の銃の射程はとんでもなく長い上に効果も最悪ときたもんだ。 こいつとエンカウントしてから、妙な幻覚に悩まされるのも頭が痛くなる種の一つだ。 妙なフード被った、目の色が妙な男と何か良い感じになっている自分という幻覚を何回か見た。 そんな幻覚を見た事自体がアレでナニでシャウトしたい気分にさせてくれたが、現実はかーなーりーシビアである。 ああ、それにしても、こいつに捕まえられてから不幸続きだ。脱獄させて貰ったとはいえワルドに脅され、そしてこいつに脅される。 ひょっとして、わたしの人生これから常に誰かに脅され続けられるのか。それなんてイジメ? いくら貴族から盗みをしてきたとはいえ、あんまりじゃないですか始祖ブリミル。誰でもいいから誰かたーすーけーてー。 ぶっちゃけまだ現実世界に戻りきれていない。逃げれるものなら逃げているのだが、逃げれない。 「ま…オメーを頼りにしてんだからよ。何考えてるのか知らないがしっかり頼むぜ」 そんな思いをよそに横からかかる兄貴のお声。 「嬉しくて涙が出るよ」 本当に涙が出そうだ。 左手で肩を掴んで右手で木の幹を触って、木だけを恐ろしい程の速度で枯らしてさえいなければ。 言葉で言わなくても分かる。 目がマジだ。 明らかに裏切ったら、『なにがあろうと、例えどんな障害があろうと必ず排除してオメーをババァにする』 そう言っている目だ。 不言実行。そう思った時、スデに行動は終わっているッ!って感じの! アルビオン軍全てを敵に回しても、こいつはヤる。 直感だがそう感じた。 ボスを斃すという目的のためにパッショーネを離反したという暗殺チームの意地の片鱗を確かに感じ取っているッ! なるべく目を合わさないように空を見上げると、懐かしい顔が笑顔で手を振っている姿を幻視した。 思わず目から冷たいものが流れ出る。 ―畜生、汗が冷たいや。…………泣いてなんかいないやい。泣いてたまるか、絶対に泣くもんか。 もう一人の自分にそう言い聞かせるが、精神的に大分参っている。 今、DISCがINすれば、確実にハイウェウイ・トゥ・ヘルが発現するだろう。 ぶっちゃけこいつ連れて行きたくないが、生きてアルビオンに着いたら一度孤児院に戻ろう。 戻ってあの笑顔で癒されよう。そう堅く決意する。 「なに呆けてやがる」 「…なんでもないよ」 またしても現実に引き戻されたが、ここで死ぬわけにもいかないし、老化して孤児院を養老院にするつもりもない。 なんというか、後者の方が嫌だ。 あの子達からフーケおばあちゃんなどと言われる所を想像したら寒気がした。 おばちゃんを通り越して一気におばあちゃんというのはキツイ。いやまぁ、おばちゃんも嫌だけど。 つまり、前進するしか無いわけだ。後退すれば最悪な結果が待っている。 後退するより前に出た方が良い結果が出るという、ある特定世界の法則もある。 しかしながら、死者を蘇えさせる事のできる虚無の使い手(とフーケは思っている)と もんのスゴイ勢いで老化させる訳の分からん能力を持つプロシュートのどちらを相手にした方がマシかとまだ大分悩んではいるのだが。 虚無と言えば、伝説のアレであり、えげつない魔法を使うので相手にしたくないのだが グレイトフル・デッドもアレな能力なので相手にしたくない。 ぶっちゃけストレスで胃が痛い。よくこんなのを使い魔にできたなとルイズの事を思わんでもない。 (火薬樽の近くで火遊びするようなもんだよ、まったく…) 使い方次第では強力な武器になるが、一歩間違えば自爆する。 暗殺チームとしては抱く感想としては間違った感想ではない。 「そういや、クロムウェルの系統は何だ?」 唐突にそう訊かれたフーケだが、思わずコケそうになった。 こいつ知らないで暗殺しようとしてたんかい!と突っ込みそうになったが、ギリギリ耐える。だってまだ老化したくない。 「虚無だよ、虚無。わたしの前で死人を生き返らせたんだ」 「?ありゃあアンドバリだったか、その指輪の効果じゃねーのか?」 「わたしには分からないよ。本人は虚無は生命を操る系統だった言ってるけど」 顔に手を当てて少し考えたが、答えはすぐに出た。 「成程…大したタマだな」 「どういう事さ」 フーケは訝しそうにしていたが、実際に虚無を見ている側としては違う事が分かる。 まだあるだろうが、確認した『エクスプロージョン』と『ディスペル』は生命を操る魔法ではない。 中にはそういうのもあるかもしれないが、それだけで『生命を操る系統』などとは言いはしない。 「ま…死人生き返らせたってのは指輪で間違いないだろ。…オレの直を食らっても動こうとしてたヤツなんざ死人以外の何モンでもねー」 ただ、虚無ではないにしろ、指輪の効果がまだ他にあるかもしれないので迂闊には接近できない。 死人といえど自在に操っていたからには、洗脳という効果も考慮に入れておいた方がいいと判断した。 「要は国を巻き込んだペテンだ。皇帝より盗賊のが向いてんぜ。そいつはよ」 「ふーん、そうか…そういう事か」 フーケ自身、レコンキスタに特に興味が無かったし、誰が皇帝になろうが知ったこっちゃあないが ただ一つ、守る物がある。 死人を生き返らせた事から、クロムウェルにビビッっていたが、それが虚無ではないと知ると途端にムカついてきた。 別段、騙されたからという事ではない。 クロムウェル自身が言っていた事だが『忌まわしきエルフから聖地を取り戻す』などとほざいていたのである。 そうなると万が一だが、あの娘の身が危ない。 あの人一倍世間知らずで、自分が唯一守るべき者が。 平時ならともかく、戦争となればあの場所に敗残兵などが雪崩れ込む可能性すらあるのだ。 トリステインであれ、アルビオンであれ、軍となればどちらであろうとそれは拙い。 なら、このエルフなんぞどうでもよさそうで、ある意味『全ての生命を終わらせる』という クロムウェルに相反する力を持つこの男に乗ってみるのも悪くない。 「気が変わった。しばらくだけど、あんたに付き合わせてもらうよ。ただし、わたしと、その周りに危害を加えない事。これが条件」 「ふん。まぁいいだろ。頼んだぜフーケよ」 前と同じ『頼む』という言葉だが、意味は異なる。 さっきのは、グレイトフル・デッドで半分脅しながらだったが、今回は違う。 マジに、言葉のままだ。 何故に変わったかというと、フーケが変わったからである。 グレイトフル・デッドで脅していただけあって、それで従っているような感じだったが、今は違う。 こちらに条件を要求してくるあたり、フーケ自身がそう自分で判断した結果だ。 無論、完全に信用したわけではないが、無理矢理従わせた10人より、自分自身でそう行動すると決めた一人の方が余程信用するに足りるのである。 なにより、余計な気やスタンドパワーを回さずに済むので楽で良い。 「それじゃあ行くか。マンモーニどもはついでだがな」 「…メンヌヴィルは任せたからね」 フーケとプロシュートが二手に別れる。 まだフーケが、こちらに付いたという事は知られていないので単独行動させた方がいいと判断しての事だ。 フーケは、手筈どうりなら人質が集められているであろう食堂に。 プロシュートはしばらく状況を探るために人の居なさそうな場所へと身を隠すために。 互いに身の心配などはしていない。その辺りは両者ともプロである。 混乱の学院にグレイトフル・デッドという『悪魔』を従える暗殺者が舞い戻った。 プロシュート兄貴―マジに殺る気の兄貴がヤバイ『学院』にINッ! はぐれ犯罪者コンビ―改めて結成 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/572.html
手を使わずに、ペンを動かす。 これは別に何ら奇妙なことではない。 メイジは、ある程度なら簡単に自動書記が可能であり、あらかじめ鍛錬した動作であれば、軽く杖を振っただけでそれをトレースすることが出来る。 貴族は、その格式の高さから、封書を閉じる封蝋(ふうろう)と、その上に判子を押すという一連の動作を魔法で行う。 王族に近いヴァリエール家の者であれば、嗜みとして当然のことであったが、ルイズにはそれが出来なかった。 魔法成功率0%と呼ばれるだけあって、呪文を用いる魔法はほとんど爆発してしまう、呪文を用いないごく簡単な魔法は、発動すらしない。 そんなわけで、授業では必ず自分の指を使ってノートを取るルイズだったが、今日は違った。 最初に異変に気づいたのは『風上のマリコルヌ』だった。 トリスティン魔法学院では、様々な魔法薬の講義も行っているが、魔法薬の材料となる薬草、秘薬、その他の材料をいちいち消費するわけにはいかない。 黒板の前で大きな巻物が宙に浮き、そこには様々な素材のイラストが描かれている。 さながら写真のような精密さだ。 メイジは得意とする属性とは関係なく、魔法に関わる全般に詳しくなければいけない。 しかし彼らは自分の得意分野以外にはあまり興味がない、魔法薬を専門に学ばない限り、微細な特徴まで知る必要はないと考えているのだ。 ルイズはその中でも異端の異端、得意とする属性すら分からない状態なので、どんな種類の講義でも真面目に受けてようと努力していた。 この『イラスト』に関してもだ。 マリコルヌは、ふとルイズの席を見た。 さっきからペンを走らせる音が妙に大きいからだ。 ルイズの席は列の一番奥だが、その周囲2席分には誰もいない、何度も爆発騒ぎを起こしたルイズのそばに座る者は皆無なのだ。 間を2席開けて座っていたマリコルヌは、音の招待に気づいて驚いた。 シャシャシャシャ、ではなく、シャァァーーー、と音を立ててペンが紙の上を走っている。 ルイズも魔法が使えるようになったのか! と驚いたマルコリヌは、好奇心からルイズの席に近づくことにした。 席を一つ詰め、二つ詰め、ルイズの隣に座り、ノートをのぞき込んだ。 そこに描かれているのは教材のイラストと同じイラストだった、そのあまりの見事さに、風上のマリコルヌは思わず声を上げた。 「すごい…」 それに驚いたのはルイズだった、ぼーっと授業を受けていた彼女は、隣にマリコルヌが座っていることに気づいていなかった。 しかもノートをのぞき込んでいるのだ、声に驚いたルイズはマリコルヌを見、マリコルヌはルイズを見た。 その距離5cm。 「ぎゃあああああああああああああああ!!」 バッキョォォォォォォォン! 「タコスッ!?」 およそ貴族らしからぬ悲鳴を上げたルイズは、ノーモーションからのアッパーカットをマリコルヌに放った。 まるで分厚い鉄板に銃弾が当たったような音が響き、マリコルヌの体は宙に浮いた。 風上から風下に風がながれるが如く、上流から下流に水が流れるが如く、宙に浮いたマルコリヌの体は回転しながら床へと落下した。 「な、なんだっ!?土くれのフーケか!?」 驚いたギーシュは杖を手に取り臨戦態勢を取った。 キュルケもまた杖を構えて周囲を見渡す、よだれの跡を誤魔化しながら。 タバサは今日の授業も終わりかやれやれと言った表情で、ノートを片づけ始めた。 ルイズとマルコリヌを後ろから見ていたモンモランシーは、マリコルヌが授業中突然ルイズにキスしようとしたと説明し、マリコルヌは不名誉な烙印を押されてしまった。 そしてルイズは、モット伯の館で紛失してしまった杖を新調するためには、時間と手間のかかる『契約の儀式』を行わなければいけないと思いだし、ため息をついた。 放課後、杖を新調し、さて魔法を使うぞと意気込んだルイズは、魔法学院の外に直径20m程のクレーターを作ってしまった。 意気消沈するルイズに、見物に来ていたギーシュは「もう君を馬鹿にする者はいない、君は今日から爆発のルイズだ!」と言ったため、レビテーションもフライも使うことなく爆風によって宙を舞った。 それを見ていたキュルケは破壊力に驚き 「凄いわねえ、あれならトライアングルクラスのメイジでもイチコロよ」 と感心していた。 そしてタバサは、いつか役に立つかもしれないと思い、あの魔法の出し方をルイズに教えてもらおうなどと考えていた。 その晩。 思い通りに魔法が使えないルイズを慰めようとして、キュルケはルイズを馬鹿にし、タバサはかなり真面目に爆発魔法を教えてもらおうとしていた。 「あーもう、あたしに言われたって分かんないわよ!どうして爆発するのかこっちが聞きたいわよ…」 「ルイズったら短気ねぇ」 「あ ん た に 言 わ れ た く な い !」 キュルケとルイズの漫才が終わり、キュルケが部屋に戻ろうとした。 その時タバサが突然立ち上がり、こう言ったのだ。 「一蓮托生」 何のことはない、3人でトイレに行くという事だ。 キュルケが部屋の扉を開けようとしてドアノブを回すと、扉の脇に置かれたハンガーからマントが浮いて、ルイズの肩にかかった。 ハンガーは部屋の入り口。 ベッドは部屋の奥。 キュルケもタバサも、何が変なのか気づかなかった、魔法が使えればこれぐらい当然なのだ。 しかし、続いてルイズの杖が宙に浮き、主人の手に収まったのを目撃して、二人は声にならない悲鳴を上げた。 口を半開きにして驚いているキュルケ、実に珍しい光景である。 タバサはいつもの無表情だったが、ちょっとだけ漏れていた。 「…な、なによ、そんな顔して」 「あ、あんた今どうやって杖を持ったの?」 「手で取ったわよ」 「テーブルの上に置いた杖って、そこから手を伸ばして届く?」 「何言ってるのよキュル…」 そこまで言ってふと気づいた、そういえば、マントはどこに掛けてあったのかと。 ルイズはマントを取ろうとしたときと同じように、テーブルの上に置かれたタバサの本を取ろうとして、手を伸ばした。 いや、正確には『手を伸ばすイメージをした』だ。 タバサの本を掴む感触が伝わり、本が宙に浮く。 本の感触は確かにルイズに伝わっているが、ルイズの手が感じているわけではない。 もう一本の手がタバサの本を掴んでいる、そんな感覚だった。 じわり、じわりと何かが見えてくる。 よーく見ると、ルイズの腕から半透明の腕が伸び、タバサの本を掴んでいた。 「「「……………!!!」」」 そのころルイズの部屋の前で、顔に包帯を巻いた一人の男が立っていた。 風上のマリコルヌ、彼はルイズに誤解を解いてもらおうと思い、ルイズの部屋までやってきたのだ。 ルイズの顔をのぞき込んだ自分も悪いとはいえ、脳内にシーザァーと響きそうなアッパーカットを食らったのは納得できない。 でも爆発は怖い。 誤解だけでも解いて貰わなければ、授業中にルイズを襲ったという不名誉な噂がついて回る、それだけは勘弁して欲しかったのだ。 ルイズの部屋をノックしたマリコルヌは、その扉が微妙に開いているのに気づき、部屋の中をのぞき込んだ。 ノックの音に気づいた三人は扉を見た。 先ほどキュルケが開きかけた扉の、わずかな隙間がゆっくりと開かれ、包帯まみれの風上のマリコルヌが姿を見せた。 「るいぐぅ~ごうのことはおがいなんらおぉ~」 (ルイズー、きょうのことはごかいなんだよー) 「「「…………!!!!」」」 翌日、風上のマリコルヌがよく座る席に、一輪の花が手向けられていたという。 おまけ マリコルヌ「おぐはまらいんれらーい!」(僕はまだ死んでなーい!) シエスタ「あのー、マリコルヌさん、シビンはこちらに置いておきますから」 マリコルヌ「からががうごかららいんら…てつらっれふれらい?」(体が動かないんだ…手伝ってくれない?) シエスタ「うわ…最低」 マリコルヌ「あ…ほどめ、そんはへでみらへはら、ほぐ…」(あ…その目、そんな目で見られたら、僕…) シエスタ「なにこの人…気持ち悪い」 マリコルヌ「はあ!もっほ、もっほのろひっへ!」(ああ!もっと、もっと罵って!) マリコルヌは後に「まんざらでもなかった」と語ったそうな。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-14]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-16]]}
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/94.html
ルイズ・フランソワーズ! ブローノ・ブチャラティを呼ぶ① 彼、ブチャラティは戸惑っていた。 それは、初めてのバイトでどういった仕事をすればいいのかわからないといった単純な戸惑いとは比べ物にならないほどの戸惑いようだった。 あの最後の決戦。死に逝くトリッシュを救うために自らの残された時間を差し出し、もう全てをやりとげて死ぬとばかり思っていた彼は今・・・。 「ふーん。その、イタリアって言う国からアンタは来たのね?」 「ああ・・・。その通りだ。」 つい小一時間ほど前に出会った少女に質問攻めにされていた。 彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、通称ルイズの説明を聞き、ブチャラティはある程度自分の置かれた立場を把握しようとしていた。 ここは自分の生まれ育った国イタリアではなく、魔法を使う貴族(この世界ではメイジと呼ばれる)たちが暮らす土地、ハルケギニア大陸。 その大陸の中で、4つに分けられた国の一つトリステインの敷地内にあるトリステイン魔法学院。 そして自分はそのメイジであるルイズにサモン・サーヴァントによって召喚、契約した由緒正しき使い魔となったという、ぶっ飛びすぎてまともについていけるはずのない状況に立たされていたっ!! だがブチャラティはあろうことか、そのトンデモな大展開をものの見事に『把握』して見せたのだった!普通ならすぐには把握できない状況をなぜこうも簡単に把握できたのか。それは彼もまたまともならついていけない世界を生き抜いて来たからなのだった・・・。 だがブチャラティは経験上、当たり前のことなのだろうが、用心深く最後の確認を行った。 「なあ、ルイズだったな。ちょっといいか?」 「なによ?まだ何かあるの?」 ズンッ ヒュウウウン!! まさにあっという間の出来事だった。突如彼の右腕からもう一つの『右腕』が現れ、ルイズに向かって鋭く襲いかかって来たのだっ!! ピッタァァァァン その右腕はルイズの顔面のほぼスレスレで止まっていた。その幅ティッシュ3枚分!! 見えていたなら悟った瞬間恐怖で立ちすくみ数分は動けない。だが、ルイズは!! 「・・・・?何よ?人の顔じろじろ見て。用があるなら早く言いなさいよ。」 「・・・汗ひとつかかないね・・・・。」 「は?汗?」 「い、いや、なんでもない。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・。 (『見えて』・・・いないのか・・?見えていないのならこいつはオレを狙う『スタンド使い』ではないと言えるだろう・・。 だがもしっ!!『見えてはいたが見えないフリをしている』としたら・・?相当の実力を持ち、場数をふんだギャングなら可能かもしれない。だが、何一つそれらしい動作をしないなんてありえるのか?目の前で不意にパンチの寸止め汗一つかかない奴なんているのか・・? 一滴でも汗をかけばこっちの物だったのだが・・・・・・。 ・・・考えすぎか。やはり動揺してるのはオレのほうなのかもしれない。見ず知らずの女が、いきなりオレを蘇らせたんだ。 無理もないだろう。) 「ブチャラティ?ブチャラティったら!!・・もうっ!!なんなのコイツ!なんでこのヴァリエール家の三女が、由緒正しい旧い家柄を誇る貴族のわたしが、なんであんたみたいな辺鄙な田舎の平民を使い魔にしなくちゃいけないの…?」 深く落ち込むルイズ。だがブチャラティには素朴な疑問がまだ残っていた。 「そういえば、使い魔と一言で言うが、使い魔とは主にどういうものだ?奴隷みたいな物なのか・・・?」 「主人を守り、命令を絶対遵守する、そんな卑屈なものではないわ」 ルイズが真剣な顔で返す。 「そうか・・・。じゃあ最後の『質問』だ・・。」 「質問?」 「キミの話はだいたい『把握』した。ここが魔法の国だと言うことは『把握』した。オレはキミの召喚によって この国に来てしまったのも『把握』した。キミのキスでオレは蘇生し使い魔になったこともなんとか飲み込もう・・・。 だがオレは最後に一つ、実に素朴な疑問に突き当たる。それは・・・。 ・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ どうやったらオレはイタリアに帰ることができるのかという疑問だ・・・。」 「無理よ… サモン・サーヴァントであんたを呼び出したのは私。 だけど元の場所に帰す魔法なんて知らないし聞いたこともないわ・・。」 無情!それがルイズの語った現実だった!!ブチャラティは顔にすら表さなかったが、その真実を前に愕然としてしまった!! 「私だって元々人間なんて使い魔になられたって困るのよ。とりあえず来ちゃった物はしょうがないし、これからアンタには掃除や洗濯をしてもらうわ。」 「レスピンジェレ(断る)。」 「・・・何ですって!?」 「オレは使い魔にはならない。誰かにいいように扱われるのはもう嫌だといってるのさ。」 「ふざけてるのっ!?平民が貴族に逆らえると思ってるの!?」 「いやなら力ずくで止めてみればいいじゃないか。なんなら魔法を使ってみるかい?だがオレには、キミから逃げ切る策と自信があるっ!」 ドォオオオオオオ・・・。 ブチャラティは短時間でルイズの性格の分析はできていた。そしてさっき帰る時、他の生徒のように飛んで帰らなかった事をこう分析した。コイツは飛べないほどに、魔法が得意じゃないっ! 「やってやろうじゃない!!」 予想は的中!ルイズが怒りにまかせ突進してくるっ!! 「そう、そのまま向かって来い・・・。」 「ほらっ!捕まえ・・・!」 「"スティッキィ・フィンガース"。」 スッタアアアアァァァン!!! 気がついたらルイズは、何もないはずのところでつまづき、転んでいた。 その綺麗に転ぶ様には美しさすら感じられるほどの清々しい転び方だった!! 「ふみゃっ!・・・っつう~~・・何で何もないところで転ぶのよ・・・!」 否、そこにはなかったはずの物があった。 「あれ・・?なんでこんなところに"ジッパー"があるの・・?・・ハッ!!逃げられたっ!」 体制を立て直すルイズ。すぐにドアに向かったが! 「あれ?このドア鍵かかってるじゃない!!え?じゃあアイツは『どうやって』ここから消えたの!?」 一方、廊下。 タッタッタッタッ・・・・・・ (オレの命は、『あの日』すでに終わっていたはずだった・・・・。 あのヴェネツィアでの戦いからローマでの決戦までの奇妙な時間は、『運命』がオレを生かしたと、 オレにやりとげる時間を与えてくれたと感じていた・・。だが、『今この時』はどう説明すればいい?オレの終わった命はもう! 二度と戻ってこないと思っていたのにっ!横から現れた魔法使いなんかが、平然とそのルールを破るような存在と巡り合うなんて普通考えられないっ! 『運命』は奴らに巡り合わせて尚、オレに何をさせようとしてるのだ・・・・。) 逃げながら葛藤していたブチャラティ。だが逃げてる途中、二人の男女を見かけた。 一人は金髪のいかにもキザそうな少年!服装のセンスがどこかズレていたっ! もう一人は控えめな印象の茶色のコートを着た女の子だった。 「ちょっといいか?」 「きゃあっ!!!」 予想外だった!茶色のコートの子がものすごく動揺しよろけたのだっ!! だがそれでは終わらなかったっ!運悪くそのパワーで金髪の男が押されて後ろにのけぞったっ!! バタンッ!! 「イタタタ・・・。」 「お、おいっ!大丈夫なのか!?耳元でフライパン同士をぶつけられたような驚き方だったぞ!?」 「君ぃ!何の恨みがあってケティを驚かせたんだっ!?平民が貴族を後ろから驚かせるなんて、 礼儀うんぬん以前の問題だぞっ!?」 金髪の男は少々プッツン気味に言い放つ。だがブチャラティは冷静に返した。 「そんなつもりはなかったんだが・・・。いや、それより君たち、すまないけどここの出口を教えてくれないかな。急いでいるんだ。」 「・・出口ならそこの角を曲がっていけば簡単だ。一本道だからな。」 「グラッツェ(ありがとう)。助かるよ。」 ブチャラティは去っていった。 「なんなんだあの失礼な平民は・・。ケティ大丈夫だったかい?あの平民に何かされなかったかい?」 「い、いいえギーシュさま。ただ『自分』で驚いてしまっただけです。だってあの方の声が・・・。」 「みぃ~~~ ~~~っつけたわよぉぉぉぉ!!ブチャラティィィ!!!」 ドカッ ミシッ スタァァァン!! 突然走ってきたルイズ!あまりのスピードにギーシュと呼ばれた彼は全く対応できず 吹っ飛ばされたっ!! 「ウギャッ!!」 「よくも逃げてくれたわねっ!!変なトリックまで使って!もう許さないっ! どうこらしめてくれようかしら!?」 「ま、待ちたまえ!ミス・ヴァリエール!!」 ギーシュが止める。ルイズはここでようやく人違いだったことに気がついた。 「あ、あれ?ギーシュ!?・・・ま、紛らわしいわねっ!」 「勝手に間違えたのは君だろうにっ!!・・・はっ!そうか。さっきの平民! ハハ~ン・・。なるほど。使い魔に逃げられたってわけだな? やれやれ。使い魔一匹満足に扱えないとは、流石『ゼロのルイズ』だな。」 「グッ・・。」 「彼ならそこの角さ。一本道だから簡単に見つかる。」 その次だった!ルイズがギーシュの襟を掴んで引きずる! 「ちょっと手伝いなさいっ!!」 「うわっ!な、何をするだぁーー!ケ、ケティ!また明日会おう!!」 「あ!ギーシュさま!!」 走り抜けるルイズ!引きずられるギーシュ! そして思わぬ人物とぶつかった! ボッヨォォォン ルイズは妙に弾力のある物に大激突した! 「うわわわ・・。あ!アンタは!」 「あら、ルイズじゃない。おカワイソーに。貧弱な体格だと耐久性も貧弱になるから困るわよねぇ」 そこにいたのは褐色肌のボンッキュッバンッ キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー!! グンバツのボディーを持つ女ッ!!最も気の会う親友、ちっこいメガネっ娘タバサと共に登場だっ!! 「フンッ!デカ過ぎると動くのが大変じゃなくって?ツェルプストー!」 「なんですって!?」 「STOPだレディー達。ミス・ツェルプストー。今そこを通っていったミス・ヴァリエールの使い魔と 会っただろう?彼に用があるんだ。」 止めに入ったギーシュ。だがキュルケの一言は予想外っ! 「・・・?何のこと?ここは誰も通っていかなかったわよ?」 「ええ!?」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・。 「な、何を言っているのさ。彼に会っただろう?一本道なんだから見失うはずがないっ!」 だがキュルケは一貫して、 「いいえ。私はここを『人っ子一人』通るとこを見なかったわ。タバサもそうよね?」 コクコク。無言で肯定する。 「ギーシュ!?ブチャラティは本当に『この道』を選んで通ったの!?」 「バ、バカなっ!確かに見たんだっ!よく探してみるんだ!」 トリステイン魔法学院 正門前 「ここまでくれば安心か・・・。」 ブチャラティはすでに正門のところまで到達していた。 「『元の場所に帰す魔法なんて知らないし聞いたこともない』か。だが逆に言えば、『ないとは決まってないから探せば見つかるかも』だ。ひとまずここを出て、そういう関連に詳しい人を探して、 帰る方法を探す。『来れた』のだから『帰る』ことが出来なきゃだな。」 そして出ようとした瞬間だった! 「逃がさないよッ!!」 まさに魔法!気がつけばブチャラティは空に浮かんでいたっ! 「うわっ!(しまった!空中ではジッパーは作れないッ!腕を伸ばしても無理そうだぞ・・!)」 ギーシュが空に向けて杖を掲げながら呆れ気味に言った。 「全く。平民が貴族の手をここまで煩わせるんじゃあないよ。さ、終わったよ。ミス・ヴァリエール。」 「次はせいぜい迷惑かけないようにね。行きましょ、タバサ。」 「・・・・・・・・。」 ブチャラティは浮かびながら、不意に空を見る体制になった時だった。 「ば、バカなっ!?オレの眼がまたおかしくなってしまったのかっ!? いやっ!現実だ!月が・・。月が・・・・。 月が『二つ』あったッ!!」 ブチャラティは今度こそ言葉でなく心で理解した。自分は異世界に来てしまったのだと。 自分のあまりに歪みすぎてる『運命』にほんのわずかながら、『恐怖心』すら 抱いていた・・・。 To Be Continued・・
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1820.html
教室を爆破した罰として、ルイズは魔法無しでの掃除を命じられた。(無論この教室は使えないため、休講となった) 「なるほど、それが『ゼロのルイズ』のいわれか」 「なんとでも言いなさいよ!どうせ私の魔法成功率はゼロよ!あんたは掃除が終わるまでどっかいってなさい」 ぷい、とそっぽを向いてルイズは一人で掃除をし始めた。 すると、ワムウが歩いてきて横に立つ。 「なによ、同情の代わりに手伝ってくれるとでもいうの?これは私の受けた罰なんだから私がやらないと。 まあ、強制はしないけどやってくれるっていうなら別に手伝ってもいいわ」 無言を肯定と受け取ったルイズ。 「じゃあ、あんたはあっち側をお願いね」 しかし、動かない。 「なによ?手伝ってくれるんじゃなかったの?」 「少し待て」 ぶっきらぼうに返すワムウ。 ワムウは小型の竜巻を作る。そしてッ!その竜巻は部屋中のほこりを一箇所に集めていったッ! 「……すごいじゃない、亜人のくせに私より魔法みたいなことができるなんて…」 「俺を召還したんじゃなかったのか?使い魔は主人の能力を示すというがそれならば大したメイジとやらだといえるんじゃないのか?」 「…努力したって、練習したって、どうにもならなのよ!生まれてこの方、まともな魔法なんて成功したことないのよ!」 「努力、か。我々には縁のない言葉だな」 「そうよ!あんたみたく才能だけでそれだけやれるような奴とは出来が違うのよ!」 ルイズは目に涙を浮かべる。 が、それを無視してワムウは語りつづける。 「そうだ。我が風の流法は天賦の才。我々一族はそういった能力を生かして戦ってきた。だが、多少荒削りでもありのままの能力を生かす のは貴様ら人間の方が上手いのではないだろうか?俺が今までに戦ってきた戦士たちにも波紋の強さ、弱さなどはあったが、決して自分の 本質を見失い、闇雲に攻撃してくるような敵は手ごわくない。が、自分の弱ささえも武器にする、そういった人間が手ごわいのは 二〇〇〇年間変わっていなかった。俺が負けた相手も、波紋の強さは数々の勇士とは劣っていたが、自分の本質を最大限に生かしていた」 この大男が負けたと聞いて、ルイズは唖然とする。 「あ、あんたが負けたって?『はもん』とか、よくわからないけど……そいつはなにかすごい能力を持ってたの?」 「目に見える能力だけなら、我々が戦ってきた者の中でも一般的な強さであっただろう……しかし、奴の武器は状況、怪我、道具、 能力、相手、自分全てを利用する、そういったしたたかさであった。これに敵う人間、いや我々を含めてもそんなのは数少ないだろう そして、そういったしたたかさ、というのはどんな能力だろうと発揮できる。お前の『爆発』も天賦の才、違うか?」 「そ、そうやって、高い目線で私をバカにして!励ましになってないんだから!」 言葉とは裏腹に機嫌を戻したのか掃除を再開した。 「あ、あの~」 入り口のあたりにメイドの女性が立っている 「あら、どうしたの?確かあなたは、メイドの…」 「シエスタです、ミス・ヴァリエール。あの、掃除など私めに頼んでいただければ請け負いましたのに」 「いいのよ、これは私の罰なんだから私がやらないと」 「じゃ、じゃあ手伝わせてください!」 「せっかくだけど、私の失敗が原因だし、責任くらい私が果たさないと」 「で、でも隣の…ええと…貴族様…じゃないですよね…?」 「ああ、あいつは私の使い魔よ、どうしても手伝いたいって言うから手伝ってるだけよ。貴女がやらなくても構わないわ」 ワムウは風でゴミを集めつづけている。 「いいえ、やらせてください!私もどうしても手伝いたいんです!」 といってシエスタは有無を言わさず部屋に入り込み掃除を始める。 数十分後にはほとんど片付いていた。 「ミス・ヴァリエール、掃除は終わりましたか…って貴女!魔法は禁止したはずですよ!」 「え、違います、これは私の使い魔がおこした風で……ねえワムウ、そうで…」 ワムウは既に居なかった。 「ちょっとぉぉおおおおッ!どこ行ったのよあの木偶の棒はぁあああッ!」 「貴族たるもの、掃除を手伝ってもらうくらいはいいでしょう、しかしミス・ヴァリエール!今のは魔法を使っていたのに 一方的に嘘をついていたように見えたわ!貴族のすることではないッ!」 「え、ち…違いますわ!」 「いいわけ無用です!ふたりとも、ふたりともあとで罰を与えるわ!」 説明には掃除していた時間よりも多くかかった。 * * * 寮の廊下を歩いている二人。 「ふう、ひどい目にあったわ…貴女も災難だったわね、ごめんなさい」 「い、いえ、そんな!貴族の方が私なんかに謝らないで下さい!」 「そんな貴族だとか平民だなんて関係ないわよ。あなたの好意で手伝ってもらったのに、迷惑かけちゃって… あなたにもまだやることはあったんでしょう、ごめんなさいね」 「い、いえ、仕事なんかもうありませんよ、その……もうすぐ貴族の方の家に専属で勤めることになっていて…」 シエスタが続きを話すのを止める。ワムウが部屋の前に立っていた。 「あ、あんた!どこ行ってたのよ!あのあと説明とかすごい大変だったのよ!」 「俺の風で集められるゴミはあらかた集め終わった。あいにく不器用なんでな、残りはそこのシエスタにやってもらった方が 効率的だっただろう?力仕事は先に終えていたしな。俺の仕事が終わったら俺の好きにさせて構わんだろう」 「そうじゃなくて!あんたのあの風が魔法と間違われたのよ!先住魔法の類だって言って誤魔化しておいたけど… あんたのその風の仕組みを知らないんだから説明だって難しいわよ!だいたい、窓から出て行ったのにすぐ見えなくなったなんて」 「少々日差しが強かったんでな、プロテクターを纏っていたからな」 「『ぷろてくたー』?なによそれ、よくわかんないけど今日はあんたの能力について教えなさいよ!いい、わかった?」 「教えてやるから扉を開けてくれ、扉や壁を壊されては困るんだろう?」 ブツブツといいながら扉のカギを開ける。 ワムウがすっと中に入っていく。 「さ、話の続きは中でしましょう。よくわからないけど、今は特にやることがないんでしょう?」 「え、ええ。ではお邪魔しますわ、ミス・ヴァリエール」 先ほどの話に入る。 「えーと、どこかの貴族に専属で勤めることになったんですって?」 「ええ」 「どこに勤めるのかしら?それくらいもう聞いているでしょう?」 「それが………その……モット伯というところで……」 ルイズは唖然とする。 「も、モット伯ってあの変態ドスケベオヤジ?」 「そ、そんなミス・ヴァリエール、そんな言葉をおっしゃらないでください」 「で、でも…貴女だってモット伯の評判くらい聞いているでしょう?断れないの?」 「私たち平民が貴族様に抗うなんて…私にもタルブに家族が居ますから…」 場が重くなり、二人の口は止まる。 シエスタが先に口を開く。 「でも、残り数日間ここで生活ができますから、思う存分その間は楽しませていただきます」 「じゃ、じゃあね、あさって一緒にでかけない?綺麗な湖が森の方にあるんだけど」 「本当ですか!じゃあ、お言葉に甘えて、ご一緒させていただきます……あら、もうこんな時間ですので部屋に戻らないと… 楽しみにしてますわ、ミス・ヴァリエール。」 シエスタは出ていき、扉が閉まった。 「おい、ルイズ、シエスタが言っていたモット伯とやらはどんな人間なんだ?」 「クズもクズ、貴族の風上にもおけないクズよ!いろんなところから目をつけた平民の女性を逆らえないことをいいことに 屋敷に連れ込んで、ご禁制の薬やらなにやらを使っていろいろやっているらしいけれど、王宮直属の国吏でそうそう手は出せないのよ」 「そうか、ではそんなクズは生きていても仕方がないな」 話を聞き終えたワムウは、 ワムウは窓を開け出て行こうとする。 「待ちなさい、これは命令よ。いくらクズでも貴族ですし、王宮直属の国吏なんか殺したらあんたの死刑は確実、わたしだけじゃなく シエスタも含めて使用人たちにもなにか罪を科せられるかもしれないわ」 「人間どもの社会は面倒だな、ならば死体さえ残さない『事故』にすればいい。体ごと取り込んで食えばそれも可能だ」 「ダメといったらダメよ。これはね、あんたのことも心配して言ってるのよ。とにかく、そのルーンがあって私の使い魔である以上命令は聞いてもらうわ」 それを聞いたワムウは質問で返す。 「ルーンがなければいいんだな?」 「無理よ、使い魔の契約は死なないと切れ……」 ワムウは、ルーンの刻まれた左手の甲を、切り落とした。 「なにをやってんのよワムウゥウウウッ!手首はともかく理由を言いなさい!なんでそんなにあのシエスタにこだわるのよ?」 「主人が恩を受けた以上、使い魔がその義理を返すのは当然だ、違っても今更曲げる気にはなれん」 ワムウは、窓から夜の闇に飛び去った。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/612.html
ガシャン ゴロゴロゴロゴロ ドン ガチャ ゴロゴロ・・・ゴロゴロ・・・ゴロゴロ・・・ ここに一つの奇妙なゲームが繰り広げられていた。 鬼は石ころ、逃げるは少女。捕まれば即死のデスゲーム、 少女、ルイズは必死に岩から逃げていた。 「ハァ・・・なんで・・・私がこんなめに・・・!」 もうルイズに自分の使い魔に対する情など完全に消えうせた。 彼女を薄情と責めるのは酷であろう。 明確に死を運んでくる死神に、誰が愛着をもてようか。 ダンダンダンダンダン ルイズは階段を駆け上がる ガンガンガンゴンガン ローリングストーンも階段を駆け上がる。 この岩は坂に登ろうと階段を上ろうと執拗にルイズを追いかけてきた。 「もお・・・・・・・・いやあああああああああああああ!!!!」 ストーンとの追いかけっこが始まってはや30分。 もうルイズの体力は限界に来ていた。ここまで逃げてこれたのは一重に彼女魔法を使えなかったことの賜物だろう。 もしちょっとの移動にも魔法を使うようなマンモーニならとっくの昔に石につぶされていたことだろう。 無論魔法を使えばもっと安全に逃げれたかもしれない。しかし・・・ バン! ルイズは近くの小屋に逃げ込んだ。 「ハァ・・・ヒィ・・・スーーー、ハーーーー」 ルイズは大きく深呼吸し少しでも呼吸を整えようと努力する。 少しでも足を止めれるときに体力を回復せねば・・・ ゴロリ 「ハァ・・・もう・・・なの・・・うわああああああああああああああん」 バン! 入ってきた時と同じくドアを乱暴に蹴飛ばし再びルイズは逃げる。 そこから同じく転がって出てくるローリングストーン。 岩は仮に撒いたとしてもいつの間にかルイズの側に現れるのだ。 「あんたはハイウェイスターかぁあああああああああああ」 ルイズは半ばやけくそ気味に絶叫した。 彼女自身ただ逃げてるだけではダメだと思ってはいるものの、脳にまわすエネルギーも全部筋力に回さねば逃げ切れない。 そして、運命の時が来た。 ドサッ ルイズの足がもつれて転ぶ。 「あう、あ、あ・・・」 必死に立ち上がろうとするが限界を超えた足腰はもう動かない。ただケタケタと笑うだけ。 ゴロン ゴロン ゴロン ブォッ そしてついにストーンがルイズに追いつく。 「ちくしょう・・・絶対化けて出てやる・・・このド低脳がああああ!」 ルイズが死を覚悟したその瞬間 ブウン! 突如現れた爪にルイズの華奢な体は攫われる。 「貴族がそんな下品な吐くことでなくてよ、ルイズ」 「キュルケ! それに・・・えっと」 「・・・・・・タバサ」 名前を忘れられてた少女・・・タバサはちょっと不機嫌になりつつもルイズをシルフィードの背中に。 「どうしてあんたが・・・ゲルマニアに帰ったんじゃないの?」 「んー、そのつもりだったんだけどね、タバサに送ってもらうつもりだったし。 まー最後にあんたのマヌケ面見ようと探してたらえらい場面に出くわしちゃったみたいね」 「・・・! そうよ、お願いさっきの礼拝堂に」 「・・・・・・捕まって」 タバサが言うが早いがシルフィードが空中でバレルロールをかます。 その横を ブオン! 大地から飛び上がったストーンが彼女たちの鼻先を掠めて落ちていく。 「岩の癖になんて跳躍力・・・まるでどこかの波紋使いね。タバサ低空飛行に切り替えて。そっちのほうが安全だわ」 キュルケの指示通りタバサは低空飛行に切り替える。 地上3メートルを猛スピードで駆け抜けるドラゴン。そこに、 「見つけたぞ、ルイズ! 昨日はよくもやってくれたな」 そこには昨日岩に脳天勝ち割られたギーシュが怒りの形相で立っていた。 「あの岩は君の使い魔だそうじゃないか。だったらこの傷の借りを返さねばなるまいね。 ああ勿論僕も馬鹿じゃない。岩に喧嘩売ろうなんて真似はしないさ。 しかしその主人たる君には責任を取ってもらおうか!」 いや、君は大馬鹿だ。と言うか空気読め。無理か。ギーシュだからか。ギーシュだしな。 「タバサ!」 ガシ 言うが早いがタバサはシルフィードを使いギーシュを掴み、 「あるぇ?」 そのままを一回転してギーシュをローリングストーンに向けてぶん投げる! 「あひょぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~!!!!!」 某ウィリソンフィリップ上院議員のように飛んでいくギーシュ。 ゴシカァン! そのままローリングストーンに体当たり?をぶちかますギーシュ。 ベキゴキバキボリガキベシャ しかしストーンは意に介さずそのまま激突してきたギーシュを押しつぶす! ギーシュは全身の骨をばらばらにされた しかしギーシュの『運命』は岩に彫られてないため死ねず・・・ そのうちギーシュは考えることをやめた。 「よかったの?あれ」 「大丈夫よ、ギャグキャラは死なないから」 「そういう問題・・・?」 「いいからあんたは自分の心配なさい。いい、作戦は今いった通りよ」 「分かったわ・・・でもキュルケなんでここまでしてくれるの? 私とあんたは・・・」 宿敵同士じゃない、と言おうとしたルイズの言葉をさえぎりキュルケは言った。 「ツェルプストー家は代々ヴァリエール家の恋人を奪い取るのがその宿命よ。 あたしの代だけ死に逃げなんて許さないわよ、ルイズ」 「言ってなさい万年発情女」 「・・・・・・ついた」 彼女たちはシルフィードにのってそのまま『火の塔』最上階にたどり着いた。 ガランゴン! ガランラン! 階下から何かが石の階段を壊しながら近づいてくる。 「いい、チャンスは一回こっきり、練習なしよ。失敗だったらそうね・・・お墓は作ったげるわ。 墓石もちょうどあるし。」 「縁起の悪いこと言わないでよ」 「あっはっは、冗談よ冗談」 いつも通りの軽口を叩くキュルケにルイズは感謝した。 ただ逃げ回ってたさっきまでとは違う。私は運命に立ち向かうのだ。 その結果が如何なるものであったとしても・・・『立ち向かう意思』を持てた。 その誇りこそが貴族には重要なのだ。 「もっとも・・・誇りを抱いて死ぬつもりもないけどね」 ガン! ガン! ガンガン! 岩の気配がどんどん近づいてくる。そして ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 再びローリングストーンは彼女たちの前に姿を現した。 「今よ!」 キュルケは瞬時の詠唱していた魔法を開放する。 火の二乗。強大な爆炎がローリングストーンを包み込み爆発する! ドォン! すさまじい爆音と爆風が辺りを包む。 「・・・・・・・・・」 誰も言葉を発しない。わかっているからだ。こんなもので ゴ…・・・ゴ あいつを倒せるわけがない! ゴロゴロ・・・ゴロゴロ・・・ブオン! ローリングストーンは多少のヒビを体にいれながらもなおルイズへの突進をやめない。 そしてついにストーンがルイズを捕らえんとしたその時! ガラ・・・ガラ・・・・ガラガラガラガラ キュルケの爆炎で塔の一部が崩れ落ちる。 塔の一部と一緒にルイズとローリングストーンも落ちていく。 このままいけばルイズはローリングストーンに殺されるまもなく地面に叩きつけられて死ぬだろう。 しかし、ルイズの目に絶望の色はなく、むしろその口元には笑みすら浮かんでいた。 そうここまではすべて計画通り。あとは彼女が運命を出し抜けるか・・・ 「かかったなアホが!」 彼女は落ちながらそう叫んだ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2336.html
もうすっかり日が沈んだ人気の無い宿場街の出口へ向かう影五つ。 老婆が一人、メイジが二人、韻竜が一匹、そして元ギャングが一人という混成チームと相成っております。 その集団の中から、ものスゴクたるそうな、やる気の無い声が聞こえてきた。 「歩きで三時間か……」 「なにせ、エズレ村はわずかな畑があるだけの何も無い村なんですえ。ですから、ほとんどが歩きだけになっておりますのじゃ」 平均的な人間の徒歩の速度が時速5km。この婆さんだともう少し遅くなる事や休憩を計算に入れると、約十~十二kmというところか。 それでも冗談じゃあねー、というのが本音だろう。 普通ならまだいいのだが、酒が入っているのでダルいのである。 予定外の事をやらねばならなくなったためというのもあるが、とにかくダルい。 ダルいだけにさっさと終わらせたいのだが、徒歩で三時間なぞ御免被るというところだ。 シルフィードが人間形態を取っているため、この場合の最速の移動方法は馬ぐらいしかないのだが 夜、しかも主要な街道から外れた宿場街だけに、正規の手段では手に入りそうにない。 まぁ盗んでもいいのだが、最低三頭は必要な上に、足手纏いが居るので下手打って厄介な事になる可能性高い。 騒ぎになっても面倒なので、他になんかないかと考えていたが、うってつけの移動手段がある事を思い出した。 「だからってあんたら……」 少し時間が経ち、今のフーケの目に映るのは、『ライト』で照らしながら本を読むタバサ、爆睡しているシルフィード さっきから怯えてしがみ付いているドミニク婆さん、そして店から持ってきた酒を瓶のまま飲むプロシュートの四人。 「わたしのゴーレムを馬車代わりにするんじゃあないよ!」 自慢のゴーレムの上で思いっきりくつろがれている様子に、さすがのフーケもこれには怒鳴った。 「構やしねーだろ。減りゃあしねぇんだからよ」 「減るんだよ……!精神力とかが思いっきり!」 何時になく強気だが、自分はゴーレムを動かすために命令とか出さなくちゃあならないのに ドミニク婆さんを除いて、こうもゆったりされてはそりゃあムカつきもするというものだろう。 肩を掴まれ振り向いてみると、すっげぇ良い顔をしながら『ゴーレムを出せ』だ。 表情こそ若干笑顔寄りだったのだが、酒せいか、それとも素でそうなのか、目だけは全く笑っていなかった。 正直、いつもの数倍怖かったので、言われるがままにゴーレムを出したのだが、さすがに、いいや限界だッ!というところだ。 この際、振り落としてやろうかとも思ったが、それはそれでディ・モールト後が怖いので考え直した。 第一、振り落としてもゴーレムにしがみ付かれてそのまま老化させられそうな気がする。 中の自分に言い聞かせつつゴーレムを動かしていたが、三十分もすると例のエズレ村が見えてきた。 「ほら、見えたよ」 ゴーレムの手が下に降りると各自地面に降りたが、一人だけ動こうとしない。 「ふにゃ……もうお肉食べられないのね……」 そんな寝ぼけた声を出すのはご存知シルフィードだ。 起こそうと一発頭を叩いたのだが、潰れたような声をあげると、またぐーすか寝息をたてはじめた。 「このヤロー……」 あんだけ食ってまだ食い物の夢を見るとは大したタマだが、放っておくわけにもいかない。 雪山での遭難者を起こす要領でシルフィードを起こそうとしたが、それより先にタバサがドミニク婆さんに聞こえないように小声で話しかけてきた。 「人の姿に化けてる時は脳の疲労が凄く大きい」 それを聞いて起こすのを諦めた。 今のシルフィードは、ギアッチョがジェントリー・ウィープスを展開し続けているようなものだ。 そう考えればエネルギーの消耗も半端ではないのだろう。 それに、ミノタウロスのアジトは洞窟だと聞いた。 竜の姿に戻っても通れやしないだろうし、人の姿のままでは極めて役立たずである。 それならば、このままでも特に問題はない。 完全に起きる気配が無いので、猫を扱うかのようにシルフィードの首元を掴むとそのまま背負う。 「ちッ……見かけより重いなこいつ……」 そう文句を垂れたが、元の質量がこの姿に収まっていると思えば、まだ軽い方だ。 「さすが、おにいさまはお優しい事で」 棒切れで造った貧相な門に近付くが、横からフーケの茶化すような声が届く。否、確実に茶化している。 「なら、てめーが代われ」 「ゴーレム作って疲れたからね。絶対にノゥ」 その返事に思わず舌打ちをしたが、さっきまでゴーレムの上でくつろいでいたので、仕方ねぇと思うことにした。 タバサはミノタウロスと戦るにあたって精神力を温存しておきたいだろうし、ドミニク婆さんはどちらかというと背負われる方である。 つまるところ、自分でやるしかないのだ。 無論、背中で無駄に良い夢を見ている寝ボケ竜が起きてくれれば、それが一番いいのだが。 「それでだ、ミノってのは何時から居んだよ」 「ミノタウロスが現れたのは先週の事でして……その時に手紙を村の広場の掲示板に貼り付けていったんです」 ドミニク婆さんが一枚の獣の毛皮を差し出したが、内側に血文字が書かれてある。 『一週後の晩、森の洞窟前にジジなる娘を用意するべし』 「……先週ってこたぁ……今日じゃねーかッ!」 「ですから、騎士様の姿をお見かけした時は、藁にもすがる思いでお頼みしたのでございます……」 よくやんぜ、まったく……と本気でそう思う。 一週間の時間的余裕があるなら、とっとと逃げるなりすればいいはずだ。 といっても、それは生粋の現代イタリアンの思考。 この世界の一般的な価値観は村は全てで、一度それを捨てれば他の場所で受け入られるかどうかの可能性はそう高くは無い。 そもそも、村中をかき集めて集まった金が三エキューにも満たないようでは、野垂れ死には確実だろう。 毛皮をタバサに渡しながら門をくぐると、ゴーレムの足音で外に出ていたのか、あちこちから村人が家から出てくるのが見える。 「騎士様を連れてきたよ!」 ドミニク婆さんが声をあげると、分かりやすい杖を持っているだけに、ゴーレムもタバサが出したのかと思った村人が、わらわらと集ってきた。 完全に村人の関心はタバサに移っているので、半ば放置されているプロシュートとフーケだが 村人達の姿を観察していると、少しばかり様子がおかしい事に気付いた。 「妙だな」 「……そうだね」 村人の意識がタバサに集まっている事は分かる。 ミノタウロスを倒しにメイジが、こんな何も無い寂れた村にやってきたというのだから当然だ。 解せないのは、村人がドミニク婆さんと目を合わせようとしない事。 村にとって救世主的な存在を、やっと連れてきたのだから 連れてきた方にも、なんらかのアクションがとられてもおかしくはないのだが、それが全く無い。 どいつもこいつも、例えるなら『全焼した家の前に、やっとやってきた消防車』でも見るかのような目をしている。 大方、十中八九ドミニク婆さんにとって、あまり喜ばしくない結果が待っているという事だ。 「どうも、後手に回ったみてーだな」 やれやれだ、と思いながら息を吐き出すと、出した量だけ吸い込んだ。 冷えた温度と、森の澄み切った空気が酔いを醒ましていく。 イタリアの淀んだ空気では、こんな事すらやる気にならないだろう。 タバサとミノタウロスがどうあれ、殺し合いの場に出向くのだから酒に酔ったままというのも問題がある。 あまり酒に酔わない方なので、あのままでも特に問題無いのだが、万が一でも酒に酔ったせいで死んだなど言い訳にもならないのである。 どうせ殺られるなら万全の状態で。というのが暗殺チームの慣例だ。 もっとも、あくまで『殺られるなら』であり、大概は殺られるより先に殺ってきたので、『殺るなら』自分が万全の状態で、となっていたのだが。 タバサがドミニク婆さんに、家はどこかと促したが、肝心の当人は気付いた様子は無い。 場合が場合だけに必死なんだろうが、これから数十秒後にどうなるかと考えただけで頭が痛くなる。 ただでさえ割に合わない仕事なのに、これ以上厄介な事が上乗せされては、精神的にも赤字というやつだ。 ギャング的に考えるなら、搾り取れるだけ搾り取るのだが、正直この村自体から取れる物が全く無い。 あるとすれば家や土地ぐらいだろうが、そんなもんあってもどうしようもないし 現金化するにも、こんなド辺鄙な村の猫の額のような土地なぞ二束三文にもならないし面倒だ。 となると、残された物は命ぐらいしか無いのだが、生命保険も無いような世界では同じように意味は無い。 「しょうがねぇ……か」 少々思考が危ない方に向いていたが、昔の仲間の口癖を聞こえない程度に言うと頭の中を切り替える。 こうなれば、精々タバサに頑張ってもらって出番が回ってくるような事態にならない事を願うだけだ。 「これって最悪のパターンよねぇ」 フーケも似たような結論に達したらしく、ドミニク婆さんと少し距離を取っている。 少し歩くと、プロシュート視点からすれば、素朴というより貧相というドミニク婆さんの家は村外れにあった。 ドミニク婆さんが扉を開くと、どう見ても若い娘には見えない女性が一人で泣いているところだった。 「……ジジは、ジジはどうしたんだい!」 ただならぬ様子にドミニク婆さんが問いただすが、返ってきた返事は、思ったとおりだった。 「あの娘は……あの娘は、自分のために、誰かが犠性なるのは耐えられない、と言ってミノタウロスの所に……」 予想的中。 やはり事後だったようで、プロシュートとフーケが気付かれないように家の外に避難した瞬間、家の中から大きな泣き声が聞こえてきた。 「せ、せっかく騎士様をお連れしたっていうのに、あ、あんまりだよ!この世の幸せを一つ知らんで死ぬなんて……!」 どっかの炎の柱の男のように、ドミニク婆さんが泣き喚いていたが、それを見ていたタバサがぽつりと小さく言った。 「どのぐらい前?」 「さ、三十分ほど前です」 少し考えたようだったが、短く答えた。 「まだ間に合う」 それを聞いて外の二人が、さらに三歩下がった。 「おおお、ありがとうございますだ!ありがとうございますだ!ジジを、ジジをよろしく頼みます!!」 「後生でございます!どうか!どうか娘をお助けください!」 絶叫ともいえるような声と共に、ドミニク婆さんとジジの母親がタバサの足にすがりついて泣いている。 その光景を見て、外に出ていて良かったと本気でそう思う。 なにせ、今の婆さんと母親の顔の表面は涙と鼻水の混合物で溢れているのだ。 その状態で、あんな風にすがり付かれたのではたまったもんじゃあない。 よく、アレに絡まれて平気な面してんなー、と思っていたが、タバサがドミニク婆さんに向け、何時もどおりに言った。 「洞窟まで案内して」 そして次にプロシュートを振り向いて同じ調子で言った。 戻る< 目次 続く